農中森力(もりぢから)基金事業完了

当会では、北アルプス森林組合と共同で、第9回農林中金森林再生基金事業により、大町市で三次元データを活用した広葉樹林の活用と次世代の森への更新に取り組みました。現場は北安曇郡池田町の大峰高原に隣接する、北アルプスの眺望が美しいコナラやクリを主林木とする11.6haの二次林です。

事業名は「甦れ!北アルプス地域の里山 ~立木の三次元データ化と需給マッチングによる広葉樹林の活用と再生~」です。北アルプス地域は県内でも特に広葉樹林の割合が高く(民有林の67%)、その多くが以前は薪炭林として使われていた二次林で、その活用と次世代への更新が課題となっています。

今回の事業では、需要に合わせた広葉樹資源の活用を実現していくことを目的に、iPhoneのLiDAR技術による需給マッチング等に取り組み、立木の幹部分の三次元データをプラットフォーム(「3D木材市場」※アカウント作成が必要)に掲載して需要者側の求める情報を整理しました。プラットフォームでは、ECサイトのように立木写真が並び、写真上で計測したり三次元データを任意の角度で閲覧したりすることができます。

需要者側と意見交換をする中で、木口の情報が無い状態での購入判断は現状では難しいが、山に木を見に行く動機付けや周囲の写真や森の履歴等のストーリー性を持たせることで、木材としての付加価値を高めて顧客への訴求力アップを図っていくことが重要と行くことが分かりました。一定規格以上のナラやクリについては、家具用材として新たな販路開拓を行うことができました。

また、次世代の森林への更新を促すことを目的として、皆伐母樹保残(種子を散布する木のみを一定間隔で残し、林床の光環境確保のためその他の木は伐採する方法)を実施し、伐採後の萌芽更新と天然下種更新に取り組みました。事業実施後は、3~11万本/haの萌芽や稚樹の発生が確認されており、食害や光環境の影響等を考慮しながら確実な更新が実現できるよう継続的にモニタリングを行っていく予定です。

県内では、広葉樹をメインに伐採・搬出してその後の更新を促す事例はまだ少ないため、本事業で得た知見を活かし、広葉樹資源の価格の向上と低コストで高効率に広葉樹林を維持・更新していく方法を検証し、地域の特性に合った新たな広葉樹林業の確立を目指していきます。

本事業の成果は、7月16-17日に東京都で行われる「森林組合トップセミナー」で発表します。

事業実施前 コナラを中心とした典型的な二次林
事業実施前 一部エリアではツタ類が繁茂し、整備が行き届いていない状態
iPhoneに搭載されたLiDAR機能で立木の幹をスキャン
LiDARで取得した幹の三次元データ
皆伐母樹保残による伐採後の現場
作業後の現場と北アルプス
地元木工作家や家具職人を招いて意見交換会
更新木の状況 継続的なモニタリングを行っていきます
出材した丸太 用材の新たな販路開拓につながった
事業地に設置した看板